夏の嵐 1954 121分

時は19世紀、オーストリア支配下のヴェネツィア・フェニーチェ劇場のオペラシーンから始まる。アリダ・ヴァリ扮する伯爵夫人が敵側の若き将校ファーリー・グレンジャーに恋心を抱く、夫も兄弟も対オーストリアに命を懸けているのに、道ならぬ恋であると分かってはいたが…ハンサムな敵国の中尉のために彼女はすべてを投げうってしまう。冒頭のオペラはヴェルディの「イル・トロヴァトーレ」 アリダ・ヴァリの気品ある美しさは後にTV鑑賞した「イル・トロヴァトーレ」のプリマドンナに勝っていました。F・グレンジャーはヒッチコックの『見知らぬ乗客』51に抜擢されて、映画雑誌の表紙を飾るほどでしたが、その後、この作品がほぼ最後になってしまったようで残念です。C

ナポリの隣人   2017   108分

監督ジャンニ・アメリオ 出演レナート・カルペンティエリ ジョヴァンナ・メッツォジョルノ 現代のナポリ、由緒ある堅牢な建物に一人住む老人(心臓が弱っている)が石段を休みながら登る、ようやく我が家にたどり着くとテラスを共有する隣家に新しい住人がいた。とある理由で家族が崩壊していた元弁護士の老人は隣の新しい家族を微笑ましく思うが眩しくもある。ナポリは以前より増して多人種の社会、"人情あふれる町”ではなくなり、人々は孤立しがち。そして大きな悲劇が起きる。この事件をきっかけに老弁護士は疎遠だった娘と心を通わせ始める。現代のイタリア社会が抱える問題"家族主義のイタリア"が失われている、が浮かび上がる。21世紀のネオレアリズモ(監督の言)というべき傑作です。C



流されて 1974 116分

監督リナ・ウェルトミューラー 音楽ピエロ・ピッチオーニ 出演ジャンカルロ・ジャンニーニ マリアンジェラ・メラート 地中海の華麗な8月の海を一艘のヨットが走っていた。実業家夫人のラファエラ(M・メラート)はビキニ姿で太陽を浴びながら、召使いのジェナリーノ(G・ジャンニーニ)のシャツの匂いが臭いと文句をいったり、仲間たちと時局問題について、とりとめなくしゃべりまくっていた。共産党をののしり、南部人を徹底的に貶めることで優越感に浸っていた。そんなある日、彼女はヨットからはなれた洞窟で泳ぎたいと言い出し、ジェナリーノに命じて二人だけでモーター・ボートで沖に向かった。しかし、ボートのモーターが故障し、海上をさまよったあげく無人島にたどりつく。そして2人の関係は逆転していく・・汚い言葉を叫び続けるメラートの演技、若きジャンカルロ・ジャンニーニ、驚くべき絶景(サルデーニャ島東海岸で撮影)によって観客はスクリーンから目が離せない。  2002年にはハリウッドで『スウェプト・アウェイ』(ガイ・リッチー脚本・監督、マドンナ主演)としてリメイクされている。なお、このリメイク作ではオリジナル作品でジャンカルロ・ジャンニーニが演じた役を実の息子のアドリアーノ・ジャンニーニが演じている。

メラート 2013年 訃報 71歳 T

ナポリと女と泥棒たち 1966 104分



夏をゆく人々 2014 111分

監督アリーチェ・ロルバケル 出演マリア・アレクサンドラ・ルング サム・ルーウィック アルバ・ロルバケル

トスカーナ地方、人里離れた土地、ある家族が養蜂で生計を立てていた。4人姉妹の長女ジェルソミーナは、ひと目がないとはいえパンツ一枚で外に出る、気難しく融通の利かない父親が嫌になることもあるが、仕事一筋に生きる姿には協力を惜しまない。蜂と自然のリズムのなかで生活していたが、ある夏の日、ドイツ人少年を預かり、テレビ出演したことで家族の生活に変化が生じる。トスカーナの山間の大自然が清々しく、大人へと変化していく少女の感情と日常を打破したい想いを詳細に描いています。”イタリアの宝石”モニカ・ベルッチがテレビ番組司会役として出演、ジェルソミーナに何を語りかけたのでしょうか?

カンヌ映画祭審査員グランプリ受賞 養蜂家の家族で生まれ育った女性監督アリーチェ・ロルバケル(女優アルバ・ロルバケルの妹)の自伝的作品 T



ナポリのそよ風 1937 86分

監督マリオ・カメリーニ 音楽レンツォ・ロッセリーニ 出演ヴィットリオ・デ・シーカ アッシア・ノリス ルービ・ダルマ   エディコラ(街頭の新聞売店)を開いている青年ジャンニは、金持ちの友人マックスから旅行券を貰い、彼の高価な写真機を借りて旅に出た。途中、パオラという美しい上流婦人に会った。彼女は彼の持っている写真機の名を見て、ジャンニの事をマックスと呼んだので、彼もそのままマックスに成り済まし、紳士のふりをして近付こうとする。パオラの家政婦ラウレッタがジャンニの店へ雑誌を買いに来て、彼に思いを寄せるようになった。新聞売りジャンニと紳士マックスの二重生活が始まる。しかし上流階級の高慢さと堕落に気付いたマックスはジャンニ一人になりラウレッタと共に歩むラストをむかえる。登場人物を取り巻く社会環境をコメディタッチで描く、カメリーニ監督から後年の巨匠ヴィットリオ・デ・シーカは大きな影響を受けたことでしょう。D

ナポリ湾 米映画 1960 100分

監督メルヴィル・シェイヴルソン 出演クラーク・ゲーブル ソフィア・ローレン ヴィットリオ・デ・シーカ

『5つの銅貨』のメルヴィル・シェイヴェルソンンが監督したコメディ。マイクは米フィラデルフィアの堅物の弁護士、死んだ兄の財産整理のためナポリ、カプリ島にやって来た。彼は婚約者を残して来ていて、早く帰りたくてたまらない。友人のイタリア人弁護士マリオ(デ・シーカ)の出迎えを受けた彼は死んだ兄の子ナンドに会った。マイクはナンドを引き取ることを考えるが、ナンドの叔母ルチアがそれを阻止しようとする。情熱の女ルチア。ナイトクラブの歌手で女優になる夢を持っている。こうしてナンドを巡る2人の闘いは、ロマンスへ・・・カプリの名所、青の洞窟、情熱の女ルチア役のソフィア・ローレンによる『Tu Vuo' Fa' l'Americano』のダンスシーン、ゲーブルのダンディぷりなど、見所一杯、何より光あふれる地中海のカラフルな

風物と陽気な人々が旅心を誘います。ゲーブルはこの作品の日本公開を待たずして亡くなりました。D



にがい米  1949 104分

監督ジュゼッペ・デ・サンティス 出演ドリス・ダウニング シルヴァーナ・マンガーノ ヴィットリオ・ガスマン ラフ・ヴァローネ

ポー川の稲作地帯で田植えの時期に季節労働者として働く女性たち(田植え女:モンディーナ)たちを描いた。彼女たちの身体をカメラは執拗に見つめる。18才のシルヴァーナ・マンガーノは身体は成熟しているが精神的にはまだ幼い

、恋を夢見る女を演じ鮮烈なデビューを果たした。駅頭の雑踏をドキュメンタリー的に映した導入部、まさにネオレアリズモの映画らしい臨場感が味わえる。シルヴァーナは自分に想いを寄せる軍曹(ラフ・ヴァローネ)をふって、ダンスがうまくてハンサムな米泥棒(ヴィットリオ・ガスマン)の片棒をかつぐ。だまされたと知った彼女は男を撃ち、自殺する。メロドラマの中に田植え女たちの合唱やダンスをはさみ、広大な田園風景と自然を観る者に焼き付ける。ガスマンの元カノ役フランチェスカを演じたドリス・ダウリングもこの作品で忘れがたい女優になりました。D

 

2ペンスの希望 1951  110分

監督レナート・カステラーニ 音楽アレッサンドロ・チコニーニ 出演マリア・フィオーレ ヴィンチェンツォ・ムゾリーノ

 復員兵アントーニオは貧しい家庭の長男である。彼は母や姉妹を養うため休む間もなく仕事をしなければならなかった。アントーニオは日当をいつも母に先取りされてしまうが、喜々として働く。乗り合い馬車を押し上げる仕事、教会の鐘つき、映画館にフィルムを運ぶ仕事・・常にポジティヴに。そんな彼を少しでも明るくしてくれるのは、いつも彼の後を追うように姿を見せて逃げていくカルメラだ。働くことに一生懸命のアントーニオ、彼を追って叫びながら走り回るカルメラ、声を張り上げて隣人に倅を自慢するアントーニオの母、この底抜けの陽気さがあってこそ戦後の貧困を生き抜くことができたのだ。2人は結婚に反対するカルメラの頑迷な父親に「自分たちだけでやっていく」と公衆の前で宣言、人びとから拍手喝采を浴びる。2人は、ささやかだが大きな希望を抱いて新たな出発をしていく。ナポリ近郊の町で撮影され、出演者の多くはその住民たちだった。彼らの自然な演技が生み出す雰囲気は、底なしのバイタリティに溢れ、観客に勇気と希望を与えてくれました。1952年度カンヌ国際映画祭グランプリ D



眠れる美女 2012 115分



ニュー・シネマ・パラダイス   1988  155分

監督ジュゼッペ・トルナトーレ 音楽エンニオ・モリコーネ 主演フィリップ・ノワレ ジャック・ペラン

 舞台はシチリア、映画が最高の娯楽だった時代、映写技師アルフレードと映画好き少年トトの物語。村でただ一軒だけの映画館パラダイス座は教会が

 経営している、検閲は神父が行いキスシーンをチェックしてアルフレードがカットする。トトがこれを欲しがる。『駅馬車』『揺れる大地』チャップリン映画が上映される、それぞれの観客の反応、などなどオールド映画ファンはこれだけで大満足です。映画館の消失、トトのローマへの出発、成長したトトとアルフレードの再会、トトの初恋の女性エレナとのエピソード、アルフレードが残したフィルムを一人見るトト、トルナトーレ監督の映画愛が映画になりました。大人になったトトを演じたジャック・ペランが懐かしい。D

ノスタルジア   1983 126分 ソ連・イタリア合作

監督アンドレイ・タルコフスキー 出演 オレーグ・ヤンコフスキー ドミツィアナ・ジョルダーノ   『ぼくの村は戦場だった』(1962)をTV鑑賞して以来、忘れられない監督でした。『惑星ソラリス』(1972)からは解釈が難解だけど映像が美しく、まさに映画芸術作家、というイメージをもっていましたが、この合作映画はこの監督の代表作だと思います。緑色を基本色として雨・小川・温泉池などの水が流れるシーンを背景として、主人公のロシア人(詩人)アンドレイが通訳のイタリア人女性エウジェニアとトスカーナ地方を旅する。シエナ近くのバオニョ・ヴィニョーニ(湯治場)、サン・ガルガーノ修道院(シエナ南西のシトー派修道院跡)で故郷ロシアとイタリアの風景が融合する。友人のイタリア人詩人ドメニコがローマのカンピドリオ広場で演説をしたあとガソリンをかぶる場面が挿入される、彼は火をつける前に何を語ったのか・・一方アンドレイは温泉池の端から端まで、手にしたロウソクの火を消さないように渡り終えて倒れる。脳裏には故郷ロシアの家が修道院の前庭に現れる。郷愁ノスタルジアが強烈に描かれるラストシーンでした。映画の冒頭にはロシア民謡、終わりにはヴェルディのレクイエムが流れる・・

※タルコフスキーはこの映画撮影のためイタリアに出国した後、西側へ亡命、1986年パリで亡くなりました。D