マルセリーノ パーネヴィーノ 1991 92分


監督ルイジ・コメンチーニ

名作スペイン映画『汚れなき悪戯』1955を再映画化しました。原作の舞台はイタリア・ウンブリア州の修道院なのでイタリアで再映画化されるのは納得できます。『汚れなき悪戯』をすでに鑑賞していると、どうしても比べてしまいます。子役の愛くるしさとパンとワインを介してのキリスト像とのやり取り、天国にいる母に会いに行く(神に召される)ラスト、これは奇跡か悲劇か? 主題歌「マルセリーノの唄」が流れるだけで涙が止まらない。カラー版ルイジ・コメンチーニ作品は白黒のスペイン版に比べて涙は少なめでした。C

 

街の恋   1953    104分


脚本チャ-ザレ・ザヴァッティーニ

6人の監督が6つのエピソードを担当したオムニバス映画。最初のナレーションがローマの市民たちの現実を追った新聞記事のようなものだと語る。ネオレアリズムの原点とも言える作品。カルロ・リッツァーニ「お金で買う恋」、アントニオーニ「自殺未遂」、ディーノ・リージ「三時間のパラダイス、フェリーニ「結婚相談所」、マゼッリ「カテリーナの物語」、ラットゥアーダ「イタリア人は振り向く」。夜のローマに出没する娼婦たちをカメラが追い、インタビューをしていく第1話がドキュメンタリー風で斬新、シチリアから出てきた貧しい未婚の母が生活苦でやむなく乳児を公園に置き去りにしてしまう「カテリーナの物語」は貧困と失業というテーマを真正面から描いている。6つの話を通して、この時代のイタリアの現実を見事に描き出している。オムニバス映画の傑作ジュリアン・デュヴィヴィエ監督『運命の饗宴』1942と違い、各エピソードが独立している点も新鮮。D



マーティン・エデン 2019 129分

監督ピエトロ・マルチェッロ 原作ジャック・ロンドン 出演ルカ・マリネッリ ジェシカ・クレッシー   冒険小説「野性の呼び声」などで知られるアメリカの作家ジャック・ロンドンの自伝的小説を、イタリア・ナポリを舞台に映画化。イタリア・ナポリの労働者地区に生まれた貧しい船乗りの青年マーティン(ルカ・マリネッリ)は、ブルジョアの娘エレナ(ジェシカ・クレッシー)と出会って恋に落ちる。これをきっかけに、文学の世界に目覚め、独学で作家を志すようになる。マーティンは、夢に向かい一心不乱にタイプライターのキーを打ち続ける。生活は困窮し、エレナの理解も得られることはなかったが、幾度かの挫折を乗り越え、マーティンは名声と富を手にするまでになるが、エレナを失った心を満たすことはできない。原作の19世紀のアメリカが20世紀のイタリアに変更されているが、イタリアのアカデミー賞と言われるダビッド・デ・ドナテッロ賞で脚色賞を受賞したことも納得のドラマである。T



道 1954 107分

監督フェデリコ・フェリーニ 脚本フェデリコ・フェリーニ 音楽ニーノ・ロータ 出演 ジュリエッタ・マシーナ アンソニー・クイン リチャード・ベースハート アカデミー賞外国映画賞 

 公開時、映画館・試写会でご覧になった先輩方のお話によれば、見終わったとき感動のあまり立ち上がれなかった、だれひとり席を立たなかった、そうです。純真無垢な娘ジェルソミーナは貧しい家族の犠牲となって大道芸人ザノパノに売られる。少し知恵遅れ気味の娘は何でも言う事を聞いて不慣れな芸の練習にも励む。オート三輪に寝泊まりする日々を送る中、彼女を励ましてくれる男と出会った。しかし彼はザンパノと仲が悪く最後には殺される。それを見たジェルソミーナはおかしくなってしまった、そして寝ている間に置き去りにされてしまう。数年後、疲れ切った、老いたザンパノが以前の場所に戻ってみると、聞き覚えのある曲(かつてジェルソミーナが歌っていた)を口ずさんでいる女性と出会った。聞くと数年前、頭が変だった娘が歌っていた、道端で死んだらしい。ザンパノは泣き崩れる。老いて孤独に身を焼くザンパノ(アンソニー・クイン)の姿を忘れることはできない。T

ニーノ・ロータの哀感しみるメロディーは永遠の名曲となりました。フェリーニはこの作品で世界中映画ファンを泣かせました。劇中、食事の場面が多い、食べていくことが大変だった世相がよくわかります。同じ年、米映画『ローマの休日』が制作されました。同じイタリアで撮影されたのに全く別の国のようですね。



三つの鍵 2021 119分

監督ナンニ・モレッティ 出演マルゲリータ・ブイ リッカルド・スカマルチョ アルバ・ロルバケル ナンニ・モレッティ

ローマの高級住宅街、一つのアパートに住む3家族がある事件をきっかけに関わりを持ち始め、5年後、また5年後といった10年のスパンでいくつかのエピソードがスリリングに描かれる。飲酒事故を起こした息子アンドレアに振り回される裁判官夫妻、事故を目撃した2階に住むモニカは夫が長期出張中でひとり、出産の不安を抱え心の病で入所中の母親のトラウマに怯える。1階に住むルーチョとサラは仕事に追われる中、一人娘を夫が認知症気味の老夫婦が住む隣家に預けるが娘が一時、行方不明になってしまう。出演俳優の演技は素晴らしく格調高い映像は最後まで飽きさせない。ラストシーンについて観客の意見は様々に分かれるでしょう。『殺意のサン・マルコ駅』1990で劇的に登場したマルゲリータ・ブイは息子を偏愛する母親ドーラ役で元気な姿をみせてくれます。疑念が妄想にまで行ってしまうルーチョ役リッカルド・スカマルチョ、モニカ役アルバ・ロルバケルは個性派俳優としてますます目が離せません。C

緑はよみがえる 2014 76分

監督エルマンノ・オルミ 音楽パオロ・フレス 出演クラウディオ・サンタマリア アレッサンドロ・スペルドゥーティ

第一次世界大戦中、イタリア・オーストリア両軍を消耗させた塹壕戦を綴った、デ・ロベルトの短編『畏れ』が原作。一次大戦からちょうど1世紀の記念に制作された。

イタリア・アルプスのアジアーゴ高原、冬は雪で覆われ、夏には緑が生い茂る。1917年冬、第一次世界大戦のさなかイタリア軍兵士たちは雪山の塹壕に身をひそめていた。彼らの唯一の楽しみは家族や恋人からの送られてくる手紙のみ、そんな時、若い中尉がやってきた・・冬山の厳しくも美しい自然をバックに戦争の酷薄さを描き、ナポリ民謡が故郷への想いをつのらせる。中尉は母への手紙に「愛する母さん、一番難しいのは人を赦すことですが、人が人を赦せなければ人間とは何なのでしょうか」と綴る。オルミ監督の想いがひしひしと伝わる。C



ミラノの奇蹟 1951 96分

監督ヴィットリオ・デ・シーカ 出演フランチェスコ・ゴルサーノ パオロ・ストッパ   畑に捨てられていた赤ん坊(トト)をロロッタ婆さんがひろって育てた。婆さんが死ぬと孤児院に入れられた。トトは底抜けに善良な青年に成長した。施設が出されたトトは街偶然知り合った老人の小屋(街はずれの野原にあった)に泊めてもらった。春になった頃、トトがこの原っぱに木々を集めて小屋を作り始めると貧しい連中が集まってきて掘立小屋の部落ができた。この部落の広場から石油が噴き出すと地主が立ち退きを要求してきた。切羽詰まったトトたちを救ったのは天から降りてきたロロッタ婆さんがもたらしてくれた天の鳩だった。どんな望みも叶えてくれる奇蹟の鳩・・社会問題をおとぎ話にした、心あたたまるエピソードが続く、ネオレアリズモの作家デ・シーカが当時の映画技術を駆使して魔法の映画を作った。D

ミラノ愛に生きる 2009 120分

監督ルカ・グァダニーノ 出演ティルダ・スウィントン フラヴィオ・パレンティ エドアルド・ガブリエリーニ マリサ・ベレンソン アルバ・ロルヴァケル 

ティルダ・スウィントンと言えば『ナルニア国』シリーズの魔女など、超人の役柄ばかり・・というイメージでしたが本作でイメージチェンジ! 自ら製作も務め11年がかりで実現した。生身の女性をエレガントに演じた、「ティルダの本当の魅力が発揮された・・と」報じられた。イタリア・ミラノの上流社会が舞台、良妻賢母として富豪の一家を支えてきたエンマは、ロシアから嫁いできた。実直な夫を支え、息子の成長を誇らしく思い、レズにはしる娘にも理解を示す母だった。しかし、息子の友人(ミラノ郊外でレストラン経営を準備中)と恋に落ちてしまう。彼の海老料理を口にふくんだその瞬間、ぷりぷりとした感触がエンマを官能の世界にいざない、故郷ロシアへの想いが蘇る。エンマの得たこの新しい喜びは同時に、家族の綻びと大きな悲劇を生んでしまうが・・2010年・第83回アカデミー賞衣装デザイン賞 T



無防備都市  1945  106分

監督ロベルト・ロッセリーニ 脚本フェデリコ・フェリーニ カンヌ国際映画祭グランプリ  戦後ヨーロッパ映画の原点はイタリア・ネオレアリズモ(生の現実をドキュメンタリーの手法で撮影する)である、と言われるが、その最初の傑作がこの作品である。チネチッタ撮影所は難民収容所で使用できず街頭に舞台装置を組み立てて撮影、爆撃の跡も生々しいローマの街角は並外れた自然のセットとなった。ナチス・ドイツの占領下の極限状態の中で生きるか死ぬかの抵抗運動をリアルに描いた、ヒロインらしく登場したアンナ・マニャーニ扮するピーナがドイツ軍のトラックで連行される彼を追っていく、そしてあっけなく射殺される場面、ここから観客はドラマではなくドキュメンタリーを見る如く緊張感がラストまで続く。イタリアでは今でも名画鑑賞会で上映され続けている。この映画に衝撃を受けたハリウッド女優イングリッド・バーグマンは夫・息子を残してロッセリーニの下へ、彼ら2人のその後の顛末はバーグマンファンにお任せします!(^^)! C

息子の部屋    2001 99分

監督ナンニ・モレッティ 音楽ニコラ・ピオバーニ 出演ナンニ・モレッティ ラウラ・モランテ ジャスミン・トリンカ ジュゼッペ・サンフェリーチェ

カンヌ国際映画祭パルムドール受賞 モレッティが一躍世界の巨匠の仲間入りを果たす 小さな港町、家族と平穏な日々を送る精神科医のジョヴァンニ。ある日曜日、彼は息子アンドレアと過ごす予定だったが、急な往診依頼を受けてジョヴァンニは出かける。その日の午後、息子は出かけたダイビングで溺死してしまう。画商の妻、高校生の娘と息子の4人家族はこの悲しみが深く、どうすることもできない。平穏だった生活はこれまでと同じではなくなっていく。ジョヴァンニは「あの日をやり直せたら」、と不安定な気持ちが続き分析医の仕事もままならない。そんなある日、アンドレアと付き合っていたらしい女の子から手紙が届く、妻の電話に応え、彼女が家にやってきた。そして、彼女との出会いによって少しずつ家族が変化していく。息子との思い出が良い思い出として残り、残された家族は少しずつ平穏を取り戻していく、「もう大丈夫、あの子の人生が私たちに力をくれたから。」ラストシーン、仏伊国境の清々しい海岸風景に溶け込む家族3人の姿は悲しみから解き放たれていく家族の風景でもありました。D



ムッソリーニとお茶を 1998 114分

監督フランコ・ゼフィレッリ 出演シェール ジュディ・デンチ ジョーン・ブロウライト マギー・スミス

1930~40年代 イタリアはファシズムと戦争の時代 フィレンツェの外国人居住区にはイギリスの貴婦人たち独自のコミュニティがあり、レディ・ヘスター(M・スミス)をリーダーに優雅な日々を送っていた。服地商パオロの秘書として働くメアリー(J・ブロウライト)が、パオロの私生児ルカを引き取る。裕福なアメリカ人女性エルサ(シェール)の金銭的援助に支えられメアリーはフレスコ画家のアラベラ(J・デンチ)らと協力してルカを育てる。ヘスターはムッソリーニの保護下にあると信じていたが、戦争が本格化すると、彼女たちは敵性国民としてサン・ジミニャーノに軟禁されてしまう。パルチザン、ファシスト、ドイツ兵などが登場する後半は一転して重いドラマになりますが、トスカーナ出身のゼフィレッリ監督だからこそ撮影許可が下りたに違いないウフィッツィ美術館の内部、フィレンツェの名所の数々、フィエーゾレのエトルリア遺跡のある公園など、名所めぐりを楽しめる作品です。サン・ジミニャーノ(フィレンツェから南西55㎞、塔の街)参事会教会:ギルランダイオのフレスコ画《サン・フィーナ》も重要なシーンで見せて貰えます。(笑) C



モリコーネ 映画が恋した音楽家 2021 157分

監督ジュゼッペ・トルナトーレ 出演モリコーネと多くの監督たち  映画ファンなら誰しも短く感じる157分。走馬灯のように懐かしの映画が現れ、その素晴らしい音楽を生んだモリコーネの語りが入る。映画音楽というジャンルはイタリア映画あってこそ生まれた、と思うほど瞬時に多くのマエストロの名が浮かんできます、レンツォ・ロッセリーニ、アルマンド・トロバヨーリ、カルロ・ルスティケリ、リズ・オルトラーニ、ニーノ・ロータ、そして最も多くの作品に曲を捧げたモリコーネ。特に、ルスティケリ・ロータ・モリコーネの産みだしたメロディは聴くだけで映画の感動が蘇ります。著名人たちのインタビューによってモリコーネの作曲家としての軌跡が語られる、トルナトーレ監督との友情なくしては実現しなかった音楽ドキュメンタリー。セルジオ・レオーネ監督との深い絆、タランティーノ監督の「モーツァルトやベートーベンに匹敵する」といった評、モリコーネの2年前に逝ったベルナルド・ベルトリッチ監督の慈愛に満ちた語り、やっと手にしたオスカーを妻に掲げる姿など、知られざるエピソードに満ちています。未公開映画「供述によるとペレイラは・・」(1995年)で姿を見せてくれたマストロヤンニ(1996年死去)のインタビューも聞きたかった。C